【視察レポート3】パッシブタウン第5街区:未来を築く中高層木造住宅

この度、私たちはYKK AP様のご全面的なご協力のもと、未来の住まいとして注目を集める「パッシブタウン第5街区」を視察することができました。

今回の視察レポートでは、その感動と学びを皆様と共有したいと思います。

「木造非住宅」という言葉を耳にする機会が増えましたが、実際にその可能性を肌で感じられる場所は多くありません。

しかし、パッシブタウン第5街区は、まさにその最先端を行くプロジェクトです。

この集合住宅は、単なる木造建築にとどまらず、グリーンエネルギーによる自立型「中高層木造共同住宅」という、これまで困難とされてきた領域に挑戦し、見事に実現しています。

ハウス・ベースが目指すのは、非住宅用途の木造化・木質化普及です。

その視点から見ると、パッシブタウン第5街区は、まさに教科書のような存在でした。

環境への配慮、居住者の快適性、そして何よりも木造建築の新たな可能性を追求する姿勢は、視察ツアーのメンバーに大きな刺激を与えてくれました。

特に印象的だったのは、YKK AP様がこれまで培ってこられた技術が、このプロジェクトの随所に活かされている点です。

窓や開口部の性能、断熱技術など、細部にわたるこだわりが、この街区全体の高い環境性能を支えていることを実感しました。

このツアーを通じて、私たちは「木」が持つ無限の可能性、そしてそれを具現化する技術の進化を目の当たりにしました。

パッシブタウン第5街区は、単なる建物ではなく、これからの持続可能な社会を築くためのメッセージが込められた場所だと強く感じています。

パッシブタウン第5街区の視察レポートは、「コンセプト編」と「技術編」に分けてお伝えします。

本記事は「コンセプト編」です。

このレポートが建築実務者の皆様にとって、有益な情報となれば幸いです。

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パッシブタウン第5街区のコンセプト:未来を創る革新的な街づくり

パッシブタウン第5街区のコンセプト:未来を創る革新的な街づくり

パッシブタウン第5街区は、地域の森林資源を最大限活用した北陸初の木造中高層集合住宅です。

太陽光発電に加え、住宅3棟のうち1棟に集合住宅としては日本で初めて「水素エネルギー供給システムPower to Gas」を実装しています。

「水素エネルギー供給システムPower to Gas」とは、再生可能エネルギーの余剰電力を活用し、水の電気分解により水素を生成し、これを貯蔵し、利用する技術です。

再生可能エネルギーをシーズンシフトさせることにより、カーボンニュートラルの実現とグリーンエネルギーによる自立したまちづくりをめざしています。

パッシブタウン第5街区は、環境負荷を最小限に抑えながら、快適な暮らしを実現するために、様々な革新的な取り組みを行っています。

特に重要な3つのポイントに絞って、その詳細を分かりやすくご紹介します。

地域資源を最大限に活用し、建設時のCO2排出量をゼロに近づける

地域資源を最大限に活用し、建設時のCO2排出量をゼロに近づける

パッシブタウン第5街区は、建物を建てる際に発生する二酸化炭素(CO2)の排出量をできる限り減らし、最終的にはCO2の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指しています。

この目標を達成するために、以下の2つのアプローチを取っています。

ECMコンクリート®

1.地元・富山県産木材と低炭素型コンクリートの積極的な採用 

建物の主要な部分には、地元の富山県で育った木材を最大限に活用しています。

木は成長する過程で空気中のCO2を吸収し、伐採されて建材として使われた後も、そのCO2を建物の中に閉じ込める(炭素固定)効果があります。

さらに、コンクリートを使う部分には、通常のコンクリートよりもCO2排出量を大幅に削減できる特殊な「ECMコンクリート®」を採用しています。

「ECMコンクリート®(竹中工務店様が特許取得済)」は、セメントの60~70%を、鉄鋼を製造する際の副産物である高炉スラグの粉末に置き換えることで、コンクリート由来のCO₂排出量を6割削減できるコンクリートです。

これらの取り組みにより、建物が完成した後も、その木造建築を長く使い続けることで、閉じ込められたCO2が長期間にわたって固定されます。

その結果、このパッシブタウン第5街区の建設時に排出されるCO2の総量は、同じ規模の鉄筋コンクリート造(RC造)のマンションと比べて、およそ半分にまで削減される見込みとのことです。

このコンクリートによる打放しの施工は大変そうですが、とても綺麗に打設されています。(さすが、竹中工務店様ですね!)

関連ページ(竹中工務店様WEBサイト):「ECMコンクリート®

2.伐採跡地への植林と継続的な育林活動 

建材として使用した木材の約87%は、富山県内から調達しています。

そして、木材を伐採した地域の環境を守り、さらにCO2吸収量を増やすために、富山県東部の伐採跡地にスギの苗木200本を植樹しています。

植樹後も、草刈りなどの手入れ(育林活動)を継続的に行っています。

これらの木々が成長し、CO2を吸収することで、建設時にどうしても排出されてしまうCO2を相殺し、カーボンニュートラルの達成を目指しています。

関連ページ(YKK様WEBサイト):YKK不動産 富山県と「県産材の利用に関する建築物木材利用促進協定」を締結

パッシブデザインと再生可能エネルギーでCO2排出量を削減

パッシブデザインと再生可能エネルギーでCO2排出量を削減

建物が完成し、実際に人々が住み始めてからも、冷暖房や照明などでエネルギーが使われ、CO2が排出されます。

パッシブタウン第5街区では、この「運用時」のCO2排出量を極力抑えるための工夫が凝らされています。

これまでのパッシブタウンの街区で集めた実際のデータをもとに、建物の外壁や柱、梁などの設計を工夫し、熱が逃げたり、結露が発生したりしないように徹底しています。

特に重要なのが、窓の性能で、YKK AP様のトリプルガラス木製窓「APW 651」を採用しています。

トリプルガラス木製窓「APW 651」とは、3枚のガラスの間に空気層や特殊なガスを封入し、さらに断熱性能の高い木製フレームを組み合わせた窓です。

これにより、外の暑さや寒さが室内に伝わりにくく、室内の暖かい空気が外に逃げにくい、非常に高い断熱性能を発揮します。

外壁から熱がどれだけ逃げるかを示す「外皮平均熱貫流率(Ua値)」は0.24という非常に低い値を達成しており、少ないエネルギーで快適な室内環境を維持できることを意味します。

関連ページ(YKK AP様WEBサイト):トリプルガラス木製窓「APW 651」

グリーンエネルギーによる、ほぼ自立した木造共同住宅の実現

グリーンエネルギーによる、ほぼ自立した木造共同住宅の実現

パッシブタウン第5街区の住宅棟では、環境に優しい「グリーンエネルギー」を最大限に活用することで、外部からのエネルギー供給にほとんど頼らない「自立型集合住宅」の実現を目指しています。

暖房需要が高まる冬場、北陸地方は曇りがちで降雪もあり、太陽光による発電量が減ります。

特に注目すべきは、エネルギー自給率95%と予測されている「水素エネルギー供給システムPower to Gas」システムを備えた住宅棟です。

このシステムにより、太陽光発電などで作られた余剰の電力を水素に変換し、貯蔵することで、電力需要の少ない時期に貯めたエネルギーを、需要の多い時期に活用する「シーズンシフト」が可能になります。

水から水素を作り出す「水の電気分解」という技術を使って、ガス(水素)に変換して貯蔵するシステムです。

この水素は、燃料電池で再び電力に戻したり、燃料として利用できます。

季節によって発電量が変動する再生可能エネルギーを効率よく貯めて利用するために、非常に重要な技術です。

この「水素エネルギー供給システムPower to Gas」システムを活用することで、なんと建物のエネルギー自給率は95%に達すると予測されています。

これは、災害時など、外部からの電力供給が途絶えた場合でも、住民が安心して生活できることを意味します。

そのため、災害時には地域住民の防災拠点としても活用できるよう、整備を進めています。

水素エネルギー供給システムPower to Gas

創エネ・蓄エネを駆使した機械室内部です。

写真右手前が電気で水素を発生させる設備、写真中央のラックが水素吸蔵合金を使った水素貯蔵設備で、写真奥に燃料電池などが配置されており、これらが「水素エネルギー供給システムPower to Gas」を構成しています。

この制御を担うのが竹中工務店様が開発したEMS(エネルギー・マネジメント・システム)で、AI(人工知能)を用いて予測制御の精度を高めています。

関連ページ(YKK様WEBサイト):パッシブタウン第5期街区建築計画概要 カーボンニュートラルの実現に挑戦

まとめ

パッシブタウンの集大成となる第5街区では、これらの取り組みが組み合わされています。

◾️自然採光・自然換気などのパッシブデザインによる省エネ

太陽の光や風といった自然の恵みを最大限に活用し、冷暖房や照明の使用を抑えることで、消費するエネルギーを減らします。

◾️太陽光発電を活用した創エネ

屋根などに設置された太陽光パネルで、クリーンな電力を自ら作り出します。

◾️「水素エネルギー供給システムPower to Gas」の導入で可能となった季節を超えての蓄エネ

余った電力を水素として貯蔵し、必要な時に使うことで、季節によるエネルギーの偏りをなくします。

これらの相乗効果により、資材調達から建物の解体・廃棄に至るまでの建物のライフサイクル全体で排出されるCO2排出量は、同じ規模のRC造集合住宅に比べて、およそ60%も削減される見込みです。

パッシブタウン第5街区は、単なる住宅の集合体ではなく、未来の地球環境と私たちの暮らしを考え抜いた、まさに「最先端の街づくり」と言えるでしょう。

関連ページ(YKK AP様WEBサイト):「パッシブタウン第5街区 竣工

関連記事:木造化・木質化視察ツアーレポート(パッシブタウン第5街区:技術編)はこちら

木造非住宅ソリューションズとは?

「木造非住宅ソリューションズ」では、実務者のスキルアップや交流を目的に定期的に勉強会や見学会を開催しています。

木造化・木質化に関する支援を提供する活動において、その担い手となる実務者(設計者、施工者、その他専門家)への情報提供や啓蒙活動は必須であると考えています。

加えて、人口減少・高齢化・建築離れ等の問題による、実力・実績のある実務者確保も重要な課題です。

そうした問題意識から、木造化・木質化に関して学ぶ場を定期的に設けることにより、実務者の実力向上を図りたいと考えています。

ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援

非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。

諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。

木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。

ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。

「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための実務支援チームです。

◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出

◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築

【主なサービス内容】

◾️発注者支援:施主向けに、木造化・木質化への事業計画、依頼先選定、プロジェクトマネジメント等

◾️設計支援 :木造化・木質化プロジェクトの建築計画、デザイン、図面作成、申請等

◾️施工支援 :木造化・木質化プロジェクトの施工者紹介(元請、建て方)、施工者に対しての案件紹介等

◾️事業者支援:メーカー、商社等を対象に、木造化・木質化に関する広報、イベント、販促支援等

木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。